労働基準法で定められている「法定休日」と「連続勤務の上限」は、私たち労働者が心身共に健康な状態を保ちながら就労する基本的人権を守るためにありますが、その中身について『法定休日について答えなさい』『連続勤務の上限はどう設定されているでしょうか』と質問されて答えられる人は多くはありません。
会社で人事や労務管理に携わる仕事、そして誰よりも経営者は、労働基準法に精通していて当然というのが一般的な常識になっています。ただ、社員に対して労働基準法や、三六協定について説明する機会や社内研修を行っている会社では、そもそも、法定休日や連続勤務上限などということは問題になりにくい良い環境があるともいえます。
会社によっては半ば強制的に連続労働を強いられるようなケースも出てきます。もし、毎日休みなく会社に行くことが日常化しているのであれば要注意です。会社の運営に深くかかわる労働基準法では連続勤務は何日までと定められているかについて、ここでは詳しく解説します。
そして、連続勤務が私たち労働者の心身に及ぼす、健康リスクについても併せて解説していきます。転職するなら、会社選びをする際の重要項目になり得ますので、病気を未然予防する意味でも最後までご確認ください。
労働基準法における法定休日とは?
労働基準法によると、原則として1日8時間労働とし、週の労働時間を40時間にするように定められています。毎週8時間労働したとすると、合計で週に56時間労働することになります。
週に1回休みの場合は48時間となり、労働基準法の規定に沿うのであれば週40時間の条件を満たしていません。もう1日休みにすると、ちょうど1週間の労働時間は40時間になります。
そのため、日本の多くの企業では毎週土曜日と日曜日を休日にしているというわけです。
ちなみに、この2日間の休日は法定休日と法定外休日が混ざっています。
法定休日とは労働基準法第35条に定められていて、それによると企業は労働者に対して毎週1回休日を与えなければいけないと定められています。
ですから、上記の例に当てはめるのであれば毎週日曜日に労働者に与えられている休日は法定休日という事になります。
しかし、労働基準法には先ほども書いた通り労働時間についての決まりがあります。法定休日だけでは1日8時間労働で週40時間労働と定められている労働時間の規定を満たすことが出来ません。
そのため土曜日にも休みを設けることになります。ですから、土曜日の休みは企業が独自に設けている法定外休日に当たります。
法定休日も、法定外休日も、勤務している労働者にとっては単なる休みなので、特に違いを意識することはありませんが、企業側から見ると法定休日と法定外休日には大きな違いが発生します。
企業は時間外の労働をした労働者に対しては通常の給料に上乗せして割増賃金を支払わなければいけません。勤務日の残業に関しては通常の給料の25パーセント増しになっています。
そして休日に勤務をした場合にも割増賃金を支払うことになるのですが、割増賃金の計算が法定休日と法定外休日とでは大きく異なります。
法定外休日に労働をした場合、週の労働時間が40時間を超えていない場合は割増賃金を支払う必要はありませんが、法定休日に仕事をすることになった場合は、労働時間が週40時間を超えていなくても35パーセント増しの給料を支払うことが労働基準法で定められています。
そのため、企業側は法定休日と法定外休日を明確にしておく必要があるのです。
ちなみに、法定外休日に労働することによって週40時間を超えた場合は時間外労働と同じ扱いになり、25パーセントの割り増し賃金を支払うことが定められています。
企業側は週5日の勤務で労働時間を週40時間いっぱいに設定するので、法定外休日に仕事をすることになった時点で残業手当が発生することがほとんどです。
労働基準法における連続勤務の上限について解説
労働基準法の休日に関する決まりが分かったところで、今度は連続勤務についてチェックしていきましょう。
先ほども触れたとおり労働基準法には毎週1日は必ず休みを設けるように定めているのですが、もう一つ重要な決まりを定めています。
それは4週間で4日以上の休みを与えている企業については先ほど書いた週1日の休みを設けるように定めているという決まりを無視することが出来るという事です。
そもそもどうして連続勤務の事例がこれほど多く発生しているのかというと、法律というのは規定に書いてある決まりを守りさえすれば違反にはなりません。
つまり、原則として週に1日の休みを設けさえすれば労働基準法を違反していることにはならないのです。
なぜなら、労働基準法には連続勤務について何日以上働かせてはならないという決まりは定めていないからです。
週1日の休みと合わせてもう1つ定められている、週40時間勤務という決まりも満たしさえすれば何日連続で働かせても労働基準法に違反していることにはなりません。
週の初めである日曜日と月曜日に休ませて、そこから翌週の木曜日まで休みなく働かせ、金曜日と土曜日に休ませるようにすれば、最大で10日間連続で勤務させることになります。
1週目には日曜日と月曜日に休ませて、2週目は週の最後である金曜日と土曜日に休ませているので、1日8時間、週40時間の上限はしっかりと満たしていることになるのです。
更に4週間に4日以上の休みを従業員に与えている企業の場合ならば、毎週1日の休みを与えなければいけないという規定は免除されます。
そのため、1週目から3週目までを毎日休みなく出勤させ、4週目は日曜日から火曜日まで出勤。
その後、水曜日から土曜日まで休ませれば4週間のうちで4日間休ませたことになり、法律上では違反にはなりません。
このルールに当てはめると、最大で24日間連続で勤務させることが可能だという事になります。
また、企業側は労働者に時間外勤務手当をきちんと出しているのであれば、1日8時間、週40時間という規定を超えて労働させることが可能になっています。
ただし、残業に関しては労働基準法で時間制限が設けられています。
しかし、この法律にも強制力がなく、特別条項付き36協定という協定を結び、規定を守りさえすれば制限時間を超えた残業を課すことも可能です。
このように法律用ではいくつかの決まりがあるものの、解釈を変えることによって10日以上連続で従業員に勤務させることは簡単にできます。
加えて、1日8時間、週40時間という労働時間の規定も残業手当をきちんと出していたり、特別条項付き36協定に則ってさえいれば会社側が従業員を好きなだけ働かせても違反にはならないのです。
体は大丈夫?連続勤務のリスクとは?
しかしながら、ロボットや機械ですらも連続で働かせ続けていると、部品の劣化などを引き起こすのでメンテナンスが必要です。
ましてや労働者は人間ですから、労働基準法に則った勤務時間を守り、休日をしっかりと取っていたとしても連続勤務させることによって大きなリスクが生じる恐れがあります。
働いてお金をもらうということはとても大変だという事は社会人として働いている人ならば嫌というほど痛感しているでしょう。
いくら自分が好きな仕事に就いていたとしても働いているという事は自分が想像している以上に心身に大きなストレスを与えています。
月曜日から金曜日まで仕事をし、土曜日と日曜日は仕事から離れることによって5日間のストレスを解消し、心身ともリフレッシュした状態で仕事が出来るというわけです。
いくら規定に則っていたとしても10日以上仕事をしていれば心身ともに大きなダメージを受けます。
期間が決められているのであれば、まだ頑張れるかもしれませんが、10日間の連続勤務が際限なく続くようであれば心身の疲労が蓄積し、やがては鬱状態になるリスクがとても高くなります。
更に、連続勤務を課せられている人はその企業に勤めている人のうち、ごく一部に限られるケースがとても多いのが現状です。
ごく一部の人だけが過剰に勤務をしている状態というのは精神的に非常に危険です。
周りが全員連続勤務をしているのであれば、会社全体が忙しい状態ですし、みんなが頑張っているのならば自分も頑張ろうという意欲が湧いてくるので、精神的ダメージはそこまで大きくありません。
ところが、周りは通常通り休んでいて、自分だけが残業や休日出勤を繰り返していたとしましょう。
誰も居ない会社で自分一人だけが仕事をしているというのは大きなストレスになりますし、意欲の減退につながります。
すると気持ちがどんどん沈んでいって加速度的に鬱病になりやすい精神状態に陥ってしまうことになります。
現在、鬱病をはじめとした心の病を過度な勤務によって発症する人がとても増えていて、日本の大きな社会問題となっています。
鬱病を一度発症すると早くても数か月、病状が重い場合は数十年に渡って治療を受け続けなければいけません。
病気を発症した本人はもちろんのこと、会社にとっても大切な従業員を失うという大きなリスクが発生することになるのです。
連続勤務や過労によって引き起こされるリスクはそれだけではありません。
連続勤務をしている間は、1日の勤務時間も長くなっていることが多いです。
勤務時間が長くなればそれだけ睡眠時間もどんどん短くなっていきます。睡眠時間が短いと1日の疲れが完全には取れません。疲労が溜まったままで翌日の仕事に挑むこととなります。
睡眠不足によって疲労が蓄積していると、思うように体が動きませんし、頭の働きも鈍くなりますから単純に仕事のパフォーマンス自体が低下します。
仕事のパフォーマンスが落ちれば、いつもならば100できることが同じ時間で80しかできなくなります。
できなかった20の分はまた時間外でこなすしかありません、するとまた働く時間が長くなり、帰る時間が更に遅くなります。
睡眠時間も比例して短くなり疲れが更に蓄積され、仕事のパフォーマンスが更に低下するといった悪循環に陥ることになります。
その他にも、連続勤務において、最も注意しなければいけないのが過労死のリスクが飛躍的に高まるという事です。
過労死に関しては疲れを感じている人はまだ良いのですが、中には達成感を感じる事に生きがいを感じ、自分の心身の疲れに全く気付いていない隠れ過労という人が居るのも現状です。
特に心身に疲れを感じていなくても同じ会社に勤めている他の従業員と比べて明らかに勤務時間や勤務日数が多いようであれば十分な注意が必要です。
過労死の恐ろしい所は風邪などのように徐々に症状が現れるような病気ではなく、脳卒中や心筋梗塞など突然発症し、命に関わる病気によって死亡することがほとんどだという事です。
また、過労死は男性に特に多く、過労死をしている人の9割以上が男性です。過労死によって死亡しているのがほとんどが男性である理由として、一つは男性ホルモンと女性ホルモンの違いがあげられます。
女性ホルモンには血管の老化を防ぐ働きがあります。
血管が老化すると血管が詰まりやすくなるので、脳出血や心筋梗塞など、血管が詰まることによって命が奪われるような病気を発症しやすくなります。
女性は元々体質的に過労死になる可能性が低いといえます。そして、血流を悪くする生活習慣として喫煙や過度の飲酒があります。
喫煙や飲酒をしている割合は男性の方が女性よりも多いです。
更に、過剰な労働をしている男性は通常通りの勤務をしている男性と比べるとストレスを発散する目的によるものなのか、喫煙や過度の飲酒をしている人の割合が多いです。
また、昔に比べれば男女平等の社会とはなっていますが、まだまだ会社で重要なポストに就いているのは男性が圧倒的に多いです。
重要なポストに就いている男性は重い責任がのしかかっていますから、本当はゆっくり休みたいというような状況でも逃げられないような職場環境になっているため、長時間勤務や連続勤務をせざるを得ない状況になりやすいのです。
隠れ過労となっている人は特に自分の体の異変にいち早く気付く必要があります。
心筋梗塞や脳出血を実際に引き起こす前には、頻繁に目まいを感じたり、頭痛や肩こりを感じるなど身体に何らかの前兆が出ることがほとんどです。
そして、それ以前に自分自身がしっかり睡眠できているかを確認しましょう。
もしも毎日起床時にあと少し眠りたいと感じているうえに、1週間のうちで好きなだけ眠ることが出来る日が全く無い場合、明らかに体が疲労を訴えているので要注意です。
最後に過剰な連続勤務は論理的にも良くありません、先の過労死の問題が発覚して以降、労働基準局は連続勤務や過剰労働に対して厳しい目を向けてきています。
長期の連続勤務は危険だと心得よう
今まで説明した通り、会社側は労働基準法の決まりを守りさえすれば10日以上の連続勤務を課すことが可能です。
ところが過剰な連続勤務は心身に異常をきたします。
単純に1日の仕事のパフォーマンスが低下しますし、ストレスを蓄積して精神的にダメージを受け、鬱病を発症するリスクが高まります。
また、精神だけではなく、疲労が蓄積することによって肉体にもダメージが蓄積し、最悪の場合は脳出血や心筋梗塞などの重大な病気を突然発症することも十分あり得ます。
法定範囲内であっても連続勤務は勤務をしている従業員も勤務を課している会社にも大きな危険があることをしっかりと認識しておきましょう。